『民主文学』で旭爪あかね追悼特集

『民主文学』最新の5月号にて、昨年11月に死去した旭爪あかねの追悼特集が組まれた。 そのトップを切った吉開那津子のエッセー。 吉開が担当した「創作専科」の一生徒だった旭爪は、かなりの急ごしらえで50枚ほどの小説「屋根の上に」を提出した。 作品について吉開は以下のように述懐している。 「それはいかにも急拵えの作品らしく語彙の選択も適切ではなく、文章の起伏も乱れ勝ちであった。だが、私はこの作品の主題の現代性に、圧倒されていた」 このくだりを読んで思い出したのは、ジャンルが違うが国民的漫画となった「鬼滅の刃」を生み出した吾峠呼世晴氏のことである。 吾峠氏は漫画家デビュー前、集英社の漫画賞に短編「過狩り狩り」を投稿した。 この作品は受賞にこそかからなかったものの、その作品の世界観に編集部がざわついたという。 そして吾峠氏が「過狩り狩り」に改良を加えて初の連載作品として世に出したのが「鬼滅の刃」だ。 旭爪も紆余曲折を経て「屋根の上に」を改稿し「世界の色をつかまえに」という中編に仕上げた。 宮本阿伎氏によれば、同作品は日本で初めて「ひきこもり」を主題にした小説ではないかと論じられている。 創作への想像を絶する苦闘を経て文学史、あるいは漫画史のエポックメーキングとなりうる作品を生み出した。 その一点において、旭爪と吾峠氏とに共通点がみられるのではないか…というのは、うがちすぎにも程があろうか。 旭爪の追悼特集には、横田昌則が短いエッセーを寄せている。 横田については、過去にこ…

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旭爪あかねさんの詩「こんなときこそ」

日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」14日付は、ある種異色の紙面と言ってよかろう。 最終14面、昨年11月に亡くなられた作家・旭爪あかねさんの詩「こんなときこそ」を掲載している。 その全文は、赤旗の公式サイトで読むことができる。→ https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2021-02-14/2021021414_01_0.html いつ書かれた詩なのかは不詳であるが、詩の内容から察するに、おそらく昨年4月に発令した新型コロナの緊急事態宣言のさなかに書かれたのではとみている。 読む側としては「旭爪さんが亡くなる数カ月前の作品か…」と身構えてしまったが、その筆致はむちゃむちゃ生命力があるんだよね。 新型コロナの感染拡大という未曽有(みぞう)の事態においても、市民が声を上げて少しずつでも政治は前に動いてきた。 だから病床にある私も希望を持って生きてみせる…そういう揺るぎない決意が詩の一片一片から伝わってくる。 読み返してみて、旭爪さんがこの世を去ったことをにわかに疑ってしまう自分がいた。 でも現実は、旭爪さんはもういない。 そのことをかみしめて、改めて社会を変える一員であらねばならない…そう思っている。 「こんなときこそ」は、茨木のり子の詩「六月」が引用されている。 民主文学を代表する小説家として名を残した旭爪さんだが、詩人である茨木に惜しみないリスペクトが随所にちりばめられている。 そうした要素も含めて、素人考えで非常に恐縮だが「こんなと…

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『民主文学』新年号で旭爪あかねさん追悼

『民主文学』最新の2021年1月号が、このほど届いた。 11月8日に53歳で早世した作家で日本民主主義文学会(民主文学会)の元副会長である旭爪(ひのつめ)あかねさんを追悼する宮本阿伎(あき)氏の文が寄せられていた。 宮本氏の追悼文からは、旭爪さんの4年にわたる闘病生活の一端に触れることができる。 今年7月、宮本氏のもとへ届いた旭爪さんの手紙では、入院中は治療の副作用で寝てしまう日々だが「『民主文学』を1日1行は必ず読む」ことを実行していたという。 1日1行、というところでいかに厳しい治療に旭爪さんが耐えていたかが分かり、読んでいて改めて胸が詰まる思いがする。 宮本氏は、旭爪さんが初めて書き上げた長編小説「世界の色をつかまえに」について重要な指摘をしている。 ひきこもりの主人公を描いた「世界の―」だが、実は現代日本文学において「ひきこもり」を主題にしたのは同作品がおそらく初めて、という。 言われてみればそうかな。 「世界の―」が『民主文学』誌上に一挙発表された1998年てのは、確かに「ひきこもり」が社会問題化し始めた時期だったんだよね。 この作品は旭爪さん自身のひきこもり経験に基づいて書かれたものだが、彼女が民主文学会元会長の吉開那津子氏に「あなたがこれからの人生を生きるために、書き上げなければならない」と激励され、苦闘して世に出した軌跡でもある。 その成果が日本初の「ひきこもり文学」だったとするなら、旭爪さんの訃報はもっと大きく報じられても良かったなと思う。 天下のN…

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民主文学12月号「わが支部」

日本民主主義文学会(民主文学会)発行の月刊誌『民主文学』。 同誌には「わが支部」という連載ページがある。 全国にある民主文学会の支部について自己紹介がされる。 約1100字程度の短文だが、各支部の歴史や活動のこだわりが分かって興味深い。 最新の12月号に登場したのが1972年に結成し、14人で構成される富山支部。 執筆者の河原桂介氏は「支部として特筆すべきこと」の一つに、支部による民主文学会の会費や『民主文学』誌代の集金活動を挙げている。 1970年代の早い時期、民主文学会の前身である民主主義文学同盟では会費や『民主文学』誌代の滞納が問題となっていた。 そこで支部による集金を提起したのが、当時の富山支部であったという。 結局「各支部による集金」は全国的な方針となるのは見送られ、富山支部は自主的に今日まで支部員が県内の『民主文学』購読者と会員、準会員の集金・納入活動を続けている。 紙面の都合もあって紹介は簡潔だが、これ非常に骨の折れることだと思う。 何しろ対象は県内全域だからな。 対象となる読者、会員、準会員の中には車でも時間のかかるところに居住している人もいるだろうし、集金に先立ってアポイントを取るのも大変な労力を要するだろう。 富山支部の皆さんは、それを50年近く続けている。 河原氏は「私たちのささやかな誇り」と書いているが、大いに誇るべき取り組みであろう。 この記事を書きながらふと思ったのだが「わが支部」の記事に支部の連絡先を書いておいたらいいのではない…

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第17回民主文学新人賞発表

定期購読している『民主文学』(日本民主主義文学会編集・発行)の6月号が自宅に届いた。 毎年恒例の民主文学新人賞、この第17回の受賞作品が掲載されている。 新人賞は75歳の元国語教師・宮腰信久氏の小説「孤高の人」。 佳作は中寛信氏の小説「病院で掃除のアルバイトをするということ」だった。 文芸評論、戯曲で最終候補に残った作品はなかった。 選考委員(青木陽子、牛久保建男、乙部宗徳、工藤勢津子、仙洞田一彦の5氏)の選評を読む。 各氏の選評を読んでいると、最終選考の会議でどんなふうに議論されたかがぼんやりと見えてきて面白い。 印象としては宮腰氏の作品が満場一致で推されたわけでなく中氏との争いになったが、人物描写などがよりまとまっていた宮腰氏に軍配が上がった…てところだろうか。 惜しくも選に漏れたが、亀岡一生氏の小説「海を越えて」に選考委員の言及が多かったのが興味深い。 実質的な次点といった感じか。 「海を越えて」は、欧州から日本に来て奮闘するが、結局帰国してしまうという大相撲力士の話。 民主文学のカテゴリーで大相撲がテーマの小説ってこと自体が新鮮だし、仙洞田氏の選評で紹介したように「整形外科病院の待合室でつながりができた応援団の話」のくだりそのものに惹(ひ)かれるものがある。 てわけで亀岡氏には、ぜひこの「海を渡った大相撲力士」のモチーフを大事にして、もっと練り上げた小説を書いていただきたい。 何だか受賞作品よりも選外作品で盛り上がってしまって恐縮だが、これからじっくり…

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『民主文学』8月号に少しだけ横田昌則さん

日本民主主義文学会発行の月刊誌『民主文学』は、巻末に活動ニュース(作者と読者の会など)を載せるページがある。 囲み記事として、会員が『民主文学』誌の購読者を広げた経験を約300字程度の短文で報告する「拡大経験から」てのが載せられている。 最新の8月号では、拙ブログでも以前に取り上げた横田昌則さんが登場。 民主文学新人賞作家であり、兵庫県宝塚市の市議さんでもある。 この横田さんは「なないろ通信」という自身の議員ニュースを月2回、党議員団として毎週「市政通信」を発行している。 それらの通信に、5月にやった民主文学会の大会について書いたら「定期購読したい」という申し出があり、1人読者を拡大したことを報告している。 実は、さらに横田さんにはうれしいニュースが舞い込んでいる。 それはどんな知らせか、真相は『民主文学』を実際にお買い求めてもらって確認していただくとしよう。 それにしても、その横田さんの「なないろ通信」はぜひ読んでみたいところだ。 サイトにpdfをアップしてくんねえかな。 どうも横田さん、議員としてのサイトを持っていないみたいなんだよね。 もったいない。 facebookがあるのは確認したけど、昔から持っている個人的なやつのようで、議員用として動かしていないようだし。

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日本民主主義文学会第28回大会

定期購読している『民主文学』の最新7月号で、5月11・12日に千葉市で開かれた日本民主主義文学会(民主文学会)の第28回大会が特集された。 報告などをつらつら読んでいる。 最終日には文学会の役員選挙が行われ50人の幹事が選出され、さらに19人の常任幹事が選ばれている。 前期まで常任幹事だった横田昌則氏が退任した。 理由は拙ブログのこの記事に書いたように、横田氏が兵庫県宝塚市議選に共産党公認で出馬し、見事当選したことによる。 横田氏は退任のあいさつで「宝塚にも読者がいるので落ち着いたら支部づくりもできるかと思っている」と語っている。 ほかに常任幹事を退任したのは旭爪あかね、丹羽幹生の両氏。 理由は両氏とも病気療養によるもの。 日本共産党機関紙「しんぶん赤旗」に連載した小説「稲の旋律」が実写映画化もした旭爪氏からはメッセージが代読された。 一方、同じく「しんぶん赤旗」で連載小説「飛翔の季節」を載せた丹羽氏からのメッセージはなかったもよう。 「それだけ体調が深刻なのでは」と心配してしまうが、杞憂であれば幸いである。

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『民主文学』2019年6月号

毎年恒例の「民主文学新人賞」第16回の受賞者を作品とともに発表している。 新人賞は大阪府在住の秋吉知弘(あきよし・ちひろ)さん39歳の小説「まんまんちゃん」。 ただ今号では深刻な話題もあった。 毎月行っている「支部誌・同人誌評」であるが、評者のたなかもとじ氏が冒頭で「今月は支部誌が一冊も届かなかった」と書いている。 「このコーナーが始まって以来、初めて」とも。 もともと支部誌の発行が少ない月らしいが。 商業文芸誌でこの手の同人誌評をやっているのってどこだっけ? 『文学界』だっけ? 確か1誌くらいしかないんだよね。 貴重な評論の場なので、ぜひとも今後は1冊も届かない月がないように改善してほしい。

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